No.67 実は私、小説も書いてます❗その2

 私の小説をブログで読んでくださっている方がいらっしゃることがわかって、俄然元気が出ました❗ありがとうございます😃。

 世間ではコロナワクチンの接種が進んで、明るい未来が見え始めていると報道されていますが、私の家族はまだ誰もワクチンを打ててはおらず、自粛生活に飽き飽きしながらも、感染を回避できるよう(もはや、回避しきれるものでもありませんが)、気をつけてストレスフルな生活を続けています😓。

 皆様も、そういう生活を長い間されていると思うので、私の拙い作品をチラ見してくださることで、ちょっと異質なスパイシーな香りを感じる機会になることができたら、私にとって嬉しい限りです😌🎶。

 日常の中の『非日常』は「楽しみの素」です❗貴方にそれがひとつでもプレゼントできたらいいのですが…………。

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    「刹那~『襟子』」

  第一章「交差点」の続き

 襟子が小学生の頃の夏、海水浴場の賑わいが聞こえる。地域の子ども会が何かで十数名の小学生と保護者が数名、遠浅の海水浴場に遊びに来ていた。襟子は小学4年生くらいか。

 何度も来たことのある馴染みの浜だった。天気は快晴、風もなく海水浴日和だった。海の家が二、三軒、シャワールームや脱衣所も完備されていた。

 海の中には小さな浮島があり、中学生くらいの少年たちが飛び込んで遊んでいた。何の変哲もない、ごくありふれた海の風景である。

 強いて言えば、前日の夕方から最近よくあるゲリラ豪雨が長引いていたことが少し気がかりと言えば気がかりだった。ただ、小学4年の襟子には、その影響など全く念頭にあるはずもなかったのである。

 

 襟子は水泳には自信があった。早くはないが、ゆっくり休んだり浮いた早くはないが、ゆっくり休んだり浮いたりしながら泳ぐのなら、いつまでも泳げるような気がしていた。クロールではなく平泳ぎなら、遠くの島へも行けるような気がしていた。

 だから襟子は肩のところに小さなドーナツのような浮き輪を付けているだけで泳いでいた。それはいつものことだった。波もない凪いだ浜を襟子はどんどん沖へと泳いでいった。

 もはや同級生たちは近くにはおらず、自分のペースで自分のやりたいように泳げるのが気持ち良かった。足は立たない。時折何かの拍子に海の底の砂を足の指が掻き上げたが、その感覚も間もなくなくなった。

 襟子は落ち着いていた。溺れそうになったら、上を向いてぽっかり浮かんで体力の回復を待てばいい。慌てるとむやみに暴れるから余計に体力を消耗して溺れてしまうのだ。

 小学校の中学年としては、生意気すぎるほど落ち着いている自分に満足し、もうこれでいいだろうと海岸に向けてUターンしようとした時だった。

 その感覚は、襟子の足にガンとぶつかってきた。生き物ではない。単なる流れだ。単なる潮の流れが、まるで壁のように襟子の足下をすくった。

 その影の部分だけ水の温度が違う。周りの海より流れが速いからか、思いがけず冷たい。襟子には凍るように冷たく感じられた。

 そして、その流れは、陸から沖へと海の中の急流のような速さで帯のように繋がっているのだ。波は沖から浜へと動くものだと思っていた。遠くでサーフィンをしている何人かの若者が、その自明の理と思われることを実証している。

 しかし、襟子の足下の辺りだけ、細く速く冷たい流れが、確実に反対方向へと襟子の体を運ぼうとしていた。これが多くの海難事故の原因となる離岸流であることを知ったのは随分後のことだった。

 襟子は焦った。水の中なのに額から冷たい汗が噴き出てくるのを感じた。必死に水を掻いてはいるが全く前に進まない。それどころか、どんどん陸地が遠ざかっていく。暗闇で何者かにぐいぐい背中を押されるように、否応なしに流されていく。

 襟子は流れに必死に抵抗し、むやみに手足を動かすしかなかった。激しくもがいたために体力が急激に消耗していく。声を出したいが水の中にいるのに喉がカラカラに渇いて声にならない。そのくせ容赦なく塩辛い海水が喉にゴボゴボと飛び込んでくる。

 辺りには誰もいない。遠くまで流された襟子に気づく人はいない。苦しい。死ぬかも知れない…。襟子の頭には冷たい海底に沈んでいく自分の姿がTVドラマのように浮かんでくる。

 空を掴む自分の足の下に様々な魚たちがうようよと集まってくる。大きな魚は鋭い歯を剥き出しにして今にも噛みついてきそうだ。毒のあるクラゲの長い触手、絡み付く海藻のぬるぬるした感触まで、どこまでが現実でどこからが想像なのか定かでなくなった。

 昔溺れて死んだ人が、真っ白い手で足を掴み、水底へと引きずり込むというまことしやかな言い伝えが、急に襟子の脳裏に浮かび、恐怖が絶頂になったと思われたその時だった。

 襟子の目の前に波間から赤い(その時は太陽に照らされ続け、朱色になって色褪せていたが)ブイが現れた。それは遊泳区域の限界を示すブイだった。

 遠くまで流された…と思っていたが、実際は四角い遊泳区域の端に到達していたに過ぎなかったのだ。遊泳区域を離岸流の近くに設定するはずはないが、前日の思いの外長時間に及ぶ豪雨で流れが変わったのかも知れない。

 襟子は思わず赤いブイにしがみついた。遠くから見ていた人には、ブイを引き寄せて遊んでいるとしか見えなかったであろう。ブイには、海藻がへばり付いて乾いた後の汚れやコールタールの固まりや、フジツホの死骸などがくっついていて、襟子の腕や胸を傷つけたりしたが、そんなことは何でもなかった。襟子にとっては命の綱だった。

 そこからどうやって浜まで戻れたのかはすっかり忘れてしまったが、襟子にとってその事件は、物心ついてから「死」を意識した初めての瞬間だった。死は遠いものではなかった。すぐそこにあった。

 一つ間違えば、自分は十歳やそこらで人生が変わっていたのだ。ほんの少しの偶然と別のほんの少しの偶然がクロスした小さな点に上手く命の尾が引っ掛かったに過ぎない。

 幼かった襟子はそのことがトラウマになって水泳我できなくなるようなことはなかった。しかし、大人になってもふとした時にそれは夢の中に現れた。空を掻く足、急に冷たくなる流れ、否応なく沖へ流される無為な体の動きに眠りを妨げられることが幾度もあった。死は、確かに近くに存在したのだ…。

 

 薄闇は次第に色を濃くし、ほどなくパラパラと小雨が降ってきた。

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 第一章は、もう少し続きます。第二章は「ホーム」です。決して気持ちのいいストーリーではありませんが、『非日常』だと思ってお付き合いください(笑)😊

 まだまだビミョーな日々が続きますが、どうかご自愛くださいませ😃。 芹沢マリリンでした🎵