No.68 実は私、小説も書いてます❗その3
6月半ばになりました。時には猛暑日にも見回れる暑い日が続いています☀️。世間ではワクチン接種がどんどん進んでいるらしいですが、私にはまだ予約券も送られて来ていません。
コロナ禍の状況は、新規感染者数は減少してきていますが、やはり今でも誰が感染してもおかしくない状態という点では変わっていません。
マスクが不要になったり、外食や旅行に以前のように出かけられるようになるのは、いったいいつになるのでしょう…。
変異株も後遺症もやはり心配なので、もうしばらくは自粛生活かなぁ…と、我が身を戒めています😓うつるのもうつすのも避けたいですから…。
………🌠✨🌃🎇
それでは、今回も私の処女作「刹那~襟子」の続きをご覧ください。
第一章 「交差点」続き
薄闇は次第に色を濃くし、パラパラと小雨が降ってきた。街の灯りはまだそれほど増えないが、アスファルトの道路に黒い跡を付けながら雨は次第に大粒になっていく。
地面で跳ね返る雨粒の軌跡が、灯りにまだらに照らされて不協和音のようなリズムを刻む。数分の間に雨は車軸を流すような大雨となり、ワイパーではフロントグラスの雨粒を避けきれなくなった。
前がよく見えない。地面と空気の境目が曖昧になり、車をたたく雨音がラジオの音をかき消す。近くに高校があるらしく、下校途中の女子高生が突然の雨に驚いて駆け出している。
三人で一つの傘には入り、何がおかしいのかケラケラ笑いながら体をぶつけ合うようにはしゃいで歩く女性徒達がいる。
片や、鞄を頭に乗せ疾走していく男子生徒もいる。急いで鞄から折り畳み傘を取り出す少女の背中に、容赦なく雨は降り続く。
襟子パーカはやっと落ち着いてきた心臓の鼓動が、再び恐ろしい速さで打ち始めるのを感じ、路肩が少し広がって空き地になっているスペースを見つけると、左のバックミラーに注意を払いながら静かに車を停めた。
丁度こんな雨の夕方だった。いや、その時は雨は今と同様でも、更に風が強かった。台風ではないが、後にゲリラ豪雨と呼ばれるような激しい雨と風の日だった。
襟子は、高校二年、十六歳。その日の一瞬がほんの少しでも違っていたら、今の襟子は存在しなかったかもしれない。
思い出したくないのに、忘れたままでいたいのに、あの日の光景が、激しい雨の音とともにいやが上にも襟子の脳裏に記憶を呼び覚ます。
雨の音が籠って何処か遠くで聞こえるような車の中で、過去の記憶は逆に襟子のすぐ傍まで、地団駄を踏むような激しい足音をたてて近づいていた…。
時折雷が遠くで体に響く重低音を鳴らし、横殴りの雨が地面を叩き付けていた。大雨とともに強風が足下に溜まった雨粒を噴き上げ、傘は全く用を為さない。
頭から足の先までずぶ濡れの襟子は、寮(襟子は自宅が遠方のため、高校三年間を寮で過ごした)までのあと十五分の道のりをどうやって帰ろうかと、いまいましい湿った空気に唇を噛みしめていた。
自宅なら車で迎えに来てももらえるし、帰宅したらシャワーも浴びることができるが、寮生にはそんな環境はなかった。そのことが、少なからず襟子の気持ちをささくれたものにしていたであろうことは否めない。
雨は容赦なく襟子の体を叩き付け、夏服のカッターシャツをずぶ濡れにし、白い下着の線をそのままに露にしていた。
その上、雨を含んだシャツは襟子の肌に張り付き、その体の線まで丁寧になぞるのだった。更に強風によって紺のプリーツスカートは押さえても押さえても、腿の上までまくれ上がり、襟子は絶望的な気持ち、寧ろどうにでもなれという投げやりな気持ちにさえなっていった…。
何台もの車が、歩道のない道で襟子の体すれすれに通りすぎ、ブレーキは踏むが避けきれず、地面の泥水を豪快に跳ね上げていった。
……と、一台の灰色の車が襟子の傍で止まる。若い男がやっと免許を取ったばかりで、親の車か中古車で運転しているといった呈であった。
「家まで送るから乗ったら?」
と、運転していた男が助手席のドアを開けて襟子に話しかける。襟子は、見知らぬ男の運転する車に乗るわけにはいかないと警戒しながら、
「大丈夫です。『家』はすぐそこなので。」
と断った…が、雨の音でその声は掻き消されたかもしれない。
その時、稲光とともに一段と強い雨脚が、車の中まで吹き込もうとしていた。
「私びしょ濡れなんで。車が濡れますから…。」
「早く乗らないと後ろの車が困ってるよ。」
その車が停車しているので、後ろに二、三台の車が速度を落として近づき、今まさに止まろうか追い抜こうか、躊躇うように連なろうとしていた。
「すみません…。」
襟子は、運転者と後ろの車と、稲光のあとますますきつくなった雨脚に急かされて、車の助手席に滑り込むしかなかった…。
襟子は助手席に浅く腰かけ、濡れたスカートに一枚の木の葉がくっついているのに気づいて手に取った時、後ろの座席に更に二人の若い男が乗っていることを初めて知ったのだった…。
後ろの座席の男たちは何か小声で話している。
「○○高校?」
「…はい…。」
「家はどの辺?」
「…すぐそこです…。」
濡れてもつれた髪をしきりに撫で付け、襟子は降りるタイミングを計っていた。
悪い人たちには見えない。しかし、全く杞憂だとも言い切れない。もしも、本当に親切な人だったら、急に降りると言うと気分を害するかもしれない。
事実、座席のシートも足下も水浸しにしてしまっているのだ。しかし、今自分は濡れたシャツを通して、下着も肌の色も露に映った姿で男三人の中にいる。それも密室の…。
混乱した襟子の視界に、寮の近くの神社の鳥居が見えてきた。薄暗い雨闇の中にも、鳥居の朱色がちらちらと見え隠れして襟子を呼ぶ。
「あの神社の近くなんです!あの前で降ります!」
運転者は右にウインカーを出して車を神社の境内に滑り込ませた。
「あっ!」
と声に出た時には、既に車は境内に十メートルほど入り込み、赤い鳥居の前で止まった。鬱蒼とした木立が雨を遮り、なるほど傘を差しやすい場所ではあったが、思ったより、境内の奥に入り込んでいることに襟子はうろたえた。
道路からは距離があって、既に明滅している街の光は届かない。襟子は決然とドアノブに手をかける。その時だった…。
☂️☔☔☔️☔️☔️☔️
今回はここまでにさせてください🙋。第一章は間もなくラストで、第二章「ホーム」進みます。引き続き「非日常」をお楽しみください🙆。ではまた😁
芹沢マリリンでした🎵